ALLOTMENT Presents インタビュー:ジョナサン・ハーヴェイ

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アーティスト向けの格安スタジオを開発・提供するロンドンのチャリティー団体アクメ・スタジオが、今年で設立40周年を迎える。1970年代初頭、戦後の都市開発に大きく取り残され荒廃していた東ロンドンで、安価な制作環境を求めるアーティストを対象にスタジオ斡旋サービスを始めたアクメ・スタジオ。やがてこの一帯が時代に先駆けるユースカルチャーと現代アートの発信地として生まれ変わるのは周知のところ。現在ロンドン市内に429のスタジオユニットを管理し、レジデンシー・プログラムやアワードの授与を通じて、今まで支援してきたアーティストは5000人以上にのぼる。 東ロンドンにおける地域発展の歩みと共に、スタジオ提供からコミュニティー文化の育成と雇用開発まで東ロンドンのアートシーンを先導してきた アクメ・スタジオの広範な活動を、創立者で現CEOのジョナサン・ハーヴェイ氏とともに振り返った、そこに日本のアーティスト環境を改善するための手掛かりを求めて―

(聞き手:近藤正勝 / 構成・翻訳 大坂紘一郎)

CONTENTS

[1/5] ロンドンは世界で最も地価の高い都市の一つだが、アーティストには安価なスタジオが必要だ。私たちは幸運にもこの問題の解決策を見いだした

近藤正勝(以下、MKと表記):今から40年前、ロンドンもアートの世界も今とは随分違っていたでしょうね。

ジョナサン・ハーヴェイ(以下、JHと表記):60年代から70年代の初頭、アート・カレッジの学生はとても恵まれていたと思います。ラディカルでオルタナティブな空気に満ちていました。レディング(ロンドンから西に60キロ、イギリス南西部の都市)で学生だった私たちにとって、ロンドンはすべての出来事がおこる憧れの地でした。なんとかロンドンに出てそこに住み、アーティストとして活動を続けたいと思いましたが、ロンドンの生活費の高さは大きな問題でした。

BEC exterior 12.jpg1988年、スタジオ前でアーティストと家族たち
MK:ジョナサンさんはレディング大学卒業後、ペインティングの修士のためにチェルシー・スクール・オブ・アート(現、ロンドン芸術大学)に移ります。同年1972年にアクメ・スタジオを創設するに至りますが、その経緯をお聞かせくださいますか。

JH: 私たちより2、3年先にロンドンに移っていた先輩達が、荒廃した東ロンドンでスタジオを借りるチャンスを見いだしていました。当時の東ロンドンは、爆破された建物がそのまま残され、まさに戦後そのものでした。そこでは当時、2つの大きな動きがありました。ひとつは、コンテナ輸送のためのドックが移動しており、多くの倉庫が空になっていたこと。ふたつ目は、ロンドン自治体(the Greater London Council、以後GLCと表記)が、大型居住地の建設のために、その一帯のテラスやコテージの取り壊しを計画していたことです。

私たち (私と妻、アクメ・スタジオの共同創設者のデイヴィッドと彼の奥さんの4人) が、ロンドンに来て安いスタジオを探していた時も、やはり東ロンドンに一番の可能性を感じました。GLCに行くと、アート・カレッジあがりの長髪の係員が、「スクワット(不法占拠)したら追い出すけれど、もし自分たちで住宅協会を組織し、正式な公的団体になったら交渉してもいい」と言いました。そこで簡単な事務手続きを経て、当時の全国住宅協会に登録したのです。廃墟となった建物をスクワットする人が多かった中で、私たちは合法的なルートを選びました。

MK:協会を設立した時のメンバーは、みなさんアート学生だったのでしょうか?どのようなチーム構成だったのですか?

JH:もともとは、レディングからロンドンに来た アーティスト仲間が10人から15人いました。 組織を作るには登録料の70ポンドと発足メンバー7人が必要でした。つまり、一人10ポンド負担しなければならなかったのです。そうすると熱心だった友人も途端に話から下りてしまい、結局のこったのは私たちだけなってしまいました。

DEV JH + DP 02.jpg1972年当時、最初のスタジオの前にて共同設立者のジョナサン・ハーヴェイ氏とデイヴィッド・パントン氏
MK:学生時代は10ポンドも大金ですからね(笑)。GLCから最初に任された物件から、どのようにして規模を拡張していったのでしょうか。

JH:最初にGLCから5つの物件を借りることができました。それは21ヶ月後に取り壊される物件で、大変劣悪なコンディションでした。その代わり、自分たちで内壁をとり払い自由な制作空間をつくることができました。 GLCはその結果にとても満足し、空き家になっている物件を次々任せてくれました。それが多くのアーティストに口コミで広がり、最初の1年で100件程の不動産をマネージメントすることになったのです。

自分たちのニーズのためだけに必要としたメカニズムが、短い間に、境遇を同じくした多くのアーティストに利用される大きな組織へ成長しました。それに伴って、アーティストだった自分もこの活動にフルタイムで携わるようになりました。自分の制作活動にかける時間を奪われてしまうのを嫌がって、このような活動から遠ざかるアーティストも多いですが、私は気になりませんでした。新しい活動分野を切り開くことは、それ自体クリエイティブな仕事だと思いますから。

MK:アート支援のチャリティー団体は数多くありますが、いかに経済的に機能させ継続するのかという目先の問題に追われ、自分たちの給与を賄ってフルタイムで専念できるところまではなかなか届かないのが実情ですが……。

JH:当初、貸しスタジオの収益はすべてGLCに直接渡ってしまい、私たちは無料で組織を運営している状態でした。もちろん、これでは長続きしませんよね。最初にファンディングで助けてくれたのが The Calouste Gulbenkian Foundation, London です。それでやっと私とデイヴィッドにささやかな給与が出るようになりました。その後アーツ・カウンシル (The Arts Council of Great Britain、現、Arts Council England の前身) が、私たちの活動を文化とアートに有益であると判断し資金の支援を始めてくれました。

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[2/5] チャリティーであることとアーティスト主体であることが私たちの活動理念

MK:私がスレード大学院を卒業したのは1993年でした。それからすぐに、東ロンドンのブリックストンにあるスタジオを借りしましたが 、隣のスタジオには、 Richard Deacon, Grenville Davey やAnthony Gormleyなど、イギリスを代表するアーティストたちが私と同じようにアクメ・スタジオを通じてスタジオを間借りしていました。アクメ・スタジオを過去に利用されたアーティストに、他にどのような方がいましたか。

JH:私たちはスタジオ提供団体です。作家と交わす契約書が私たちの関係を定義しています。つまり私たちと作家は、家主と賃借人の関係であり、アーティストを(ギャラリストのように)レプレゼントするのではありません。従ってアーティストのプライバシーやプロモーションにも一切関与しません。有名無名に関わらず、すべてのアーティストを等しくリスペクトしています。
だから、現在アクメ・スタジオにいるアーティストの情報については言えませんが、既に離れて行ったアーティストのことであれば言うことができます。ターナー賞受賞者でいうと、8、9名はいるでしょうか。例えば、Richard Deacon、 Rachel Whiteread、 Martin Creed、 Grayson Perry など。Grenville Davey もターナー賞を受賞しましたね。

MK:ギャラリーとの契約がなく経済的に苦しい立場にあるアーティストを対象に、スタジオ提供を進めるアクメ・スタジオの影響は、個々のアーティストをこえてロンドンのアートシーン全体に及んでいます。アーティストからの信頼も厚いこのような組織を運営する上で、どのような理念をお持ちですか。

JH:私たちは住宅協会というすでに確立された統制モデルをアートのチャリティー団体として利用しました。 つまり、経済的な理由で困難な人たちにプロパティーを確保する手助けをすることです。振り返ってみると、この組織モデルが非常によく機能しました。他のアートに関するチャリティー団体の多くは教育目的です。その場合公益になる教育プログラムを考えたり、つまり「公」を意識した活動をしなければなりませんが、私たちは住宅協会なので、プロパティー(スタジオ)と利用者(アーティスト)だけを考えればよくて、完全にアーティスト主体であることができます。

MK: イギリスではチャリティー団体にはどのような制約があるのですか。

JH:チャリティー団体の所有する資産は、チャリティー目的で使われなければなりません。資金管理は常にFSA (Financial Services Authority) によって厳しく規制されています。また活動内容に関してはCharity Commission によって監督されています。

MK::アクメ・スタジオはどのような物件を探し、スタジオとして開発しているのですか。

JH: 取り壊しが決まった廃墟の再利用は、確かに安いのですが、短期しか借りられません。しかし、アーティストは常に長期間安定した、かつ質が良いスタジを求めています。しかしそれは高くつく。どうやってこの相克を打破するのかが、私たちの過去40年の活動です。実際、不動産市場はパワフルで、アート・カウンシルも政府さえ介入できない。私たちは、この不動産市場のダイナミズムに微力ながらも手をかしたいと願っています。

GIL Lindsay Seers 01.jpg1997年、住居付きスタジオ Work/Live unit at the Fire Station
MK:現在23平方メートル(約7坪)あたり月平均198ポンド(約2万5500円)で貸し出し、一般不動産の1/3程度と言われています。地価変動の著しいロンドンにおいて、どのように低価格を維持しているのですか。

JH:問題は、短期リースから、長期リースへ移行し、さらにどうやって不動産所有にこぎつけるかということです。実際、アーティストへのスタジオ代を極力抑えると、不動産購入のための元手資金が増えず、スタジオ代を上げれば本来の目的に沿わずに本末転倒になってしまいます。ポイントは、マーケットの仕組みを理解し、好機を逃がさず適切な判断をすることです。

MK:発足以来、短期リース契約が中心だったスタジオ提供のモデルから、不動産購入へと踏み出したのは90年代中頃でしたね。

JH:国営宝くじ基金(※1)が始まった1994-95年が転機でした。この時からアーツ・カウンシルに前例のない巨額の資金が流れ、過去10-15年に渡るイギリスの文化的インフラの向上につながりました。

※1:National Lottery: 国営宝くじの利益の3割が、スポーツ、教育、文化活動などに充てられ、当時のブレア政権の文化政策の資金的礎となった。

これを千載一遇のチャンスと捉え、アーツ・カウンシルに120万ポンド(2億4千万円)の助成金を申請しました。(※2)この資金を元に、Copperfield Road の建築物を70万ポンド(1億4千万円)、そして元消防局 Fire Station を24万ポンド(1億円)で購入。幸運にも不況時で地価が下がって買い時でした。

※2:全て当時のレート「1ポンド=200円」で換算

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[3/5] 民間企業と交渉してプラニング・ゲインの可能性を探る

JH:2005年にはアーツ・カウンシルに2度目で200万ポンド(4億円)の助成金を申請しました。この時は臨機応変な開発プログラムにたいして投資をしていただきました。この資金で4、5カ所の物件を購入し、200万ポンドを元手に1000〜1200万ポンド(20〜24億円)相当の資産となりました。つまり800〜1000万ポンド(16〜20億円)の利益を得ることができたというわけです。

それ以前私たちが扱った建物は、既存の工場などを改築していましたが、必ずしもアーティスト・スタジオとして理想的とは言えませんでした。一般には古い建築物に対する「ロマンス」があるようですが、実際使ってみるとひどいものです。正勝さんはよくご存知ですよね。

MK:ええ、雨漏りがひどくて大変でした(笑)。

JH:やはり理想はスタジオ用に最初からデザインすること。その最初の例が、ペッカム(南ロンドン)にある「ギャラリア」 (※3)です 。

※3:「ギャラリア(The Galleria, SE15)」は、2006年に(株)バレット・ホームズと提携開発した物件。アパートの一角に現役アーティストの制作スタジオを配した。2006 What House? ベスト開発賞受賞。

GAL exterior 66.jpg新築スタジオ「ギャラリア」の外観
MK:民間不動産会社と共同開発の、新築ユニット・スタジオですね。

JH:ええ、全くの新築です。ここでは民間のアパートと私たちの考えるアーティスト・スタジオが一つになりました。公共ワークスペースも用意されて、周辺住民に活用していただきます。プロパティー開発では、雇用創出(※4)が建設許可の重要な条件になっています。このような場合、通常は通りに面した建物の1階にオフィスやショップを併設します。しかし、アーティストも自営業者とみなせば、制作スタジオであってもこの条件を満たします。すぐに空きが出るかもしれないレンタルスペースにするよりも、私達と協力してアーティストを呼び入れ99.9%の入居率を保証されたほうが、開発会社にも好都合なのです。このように、民間の開発会社は私たちと関わることで建設許可を得ることができ、さらには長期的収益を上げることができます。これはイギリスでプラニング・ゲイン(※5)と呼ばれています。

※4:自営業であるアーティストは、 雇用創出やクリエイティブな地域社会育成のためにも有効で、都市計画法 (開発事業の承認に関わる Section 106) の条件も満たす。このように参加する民間企業にも有利な条件を差し出し、共同開発プログラムを成功させている。
※5:プラニング・ゲイン(Planning Gain):開発許可が与えられることで地価が上がること。民間開発会社と地方自治体の間で交渉が行われる。

開発企業との交渉で、私たちは建築費の約半分を払い、これがアーティストへのスタジオ代として後々回収されますが、残りの半分は相手側に負担してもらいます。一見、補助金のようですが、企業側も建設許可を得るために私たちを必要としている関係ですから、補助金というわけでもありません。これが2005年以降のスタジオ建設の進め方の一つとなっています。

おそらく私たちが最初だと思いますが、このプラニング・ゲインのモデルによって、Leven Road、Harrow Road、Hommertonやその他の開発計画も進み、今後1、2年で完成予定の物件もあります。成功するための大切な要因の一つは、スタジオ入居率を99%以上にしておくことです。

GAL Rebecca Stevenson 16.JPG新築スタジオ「ギャラリア」内観
MK: アクメ・スタジオのウェイディング・リストには、常時800人以上のアーティスト並んでいると聞きますが、要するにスタジオが空き家になることが無いのですね。

JH:そうです、土地を所有開発する側も、落成初日から満室のスタジオを保証されます。これで新しいスタジオ開設に際しても投機リスクがない。高い入居率はスタジオ代を下げるために必須の条件です。私たちの場合は、マーケティングに頼らず口コミから需要が広がっていったのですが、この入居率はロンドンという環境になければ違ったかも知れませんね。

多くのアーティストが、次から次へとスタジオの移転を余儀なくされています。いつも引っ越しを考えなければならず制作に集中できない、そのような事がないように私たちの活動があるのです。

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[4/5] できるだけアートの現場と関わり、若手アーティストが直面する問題点を理解したい

MK:アクメ・スタジオは地方自治体とも連帯し、現代アートの地域コミュニティーへの関与を押し進めてきたことでも知られています。レジデンシーやアワードといった数々のスキームは、関係するコミュニティーとの相互利益を強く意識してデザインされていますね。

JH: アクメ・スタジオが地域コミュニティーにどうアクセスされ、管理され、どのような意味を持つのかをいつも念頭においています。しかし、入居しているアーティストに対して、地域のために何かするように強要するべきでは無いと考えています。なぜなら作家ごとにその制作プロセスは違うし、スタジオを必要としている理由も違います。

例えば、コミュニティー・ベースのレジデンシー・プログラムでは、18ヶ月の無料スタジオ貸出しと助成金を出し、地域を自然に取り組む様な活動をしているアーティストを選んで入居してもらっています。作曲家・サウンドアーティストのISAC SUAREZの「The Human Right Jukebox」という作品では、人々が人権に関する自分の意見を録音しそれを路上ジュークボックスで再生するプロジェクトで、サウス・ロンドン・ギャラリーとサザーク区自治体との協力で行いました。(※6)

※6:The Acme Southwark Studio Residency was established in 2006, following the completion of 50 permanent new-build studios at the Galleria in Peckham. 「Southwark Studio Residency」は、サザーク・カウンシル(ロンドンの自治区)とサウス・ロンドン・ギャラリー(公立ギャラリー)の共同出資により、アクメが再開発した前述の「ギャラリア」スタジオの無償提供と助成金が贈られる。

このように私たちとアーティストとの賃貸関係を曖昧にすることなく、地域とのつながりを深めたい時は、それに適った制作活動をしているアーティストを選定しています。

MK:いまお話にありましたが、アーティストの制作内容には一切干渉しないということですね。

JH:その通りです。スタジオFire Station ではアワードやレジデンシ―・プログラムのために資金的援助もしていますが、私たちの家主としての立場からズレないために、外部組織と協力して行っています。

MK:レジデンシーでは海外の組織とも連携していますね。ロンドンという土地柄もあり、アクメ・スタジオの利用者はとてもインターナショナルですが、特に海外の関わりにおいて今後の展望をお聞かせください。

JH:オーストリア、カナダ、ドイツ、スウェーデン、スイスの7つの文化機関と連帯して、International Residencies Programmes を25年程続けています。これまでに海外から360人のアーティストを招聘し、全員に東ロンドンの制作ベースを提供しました。

海外のアーティストが個人で申し込める Associate Artist Residency は、最近立ち上げたプログラムです。私たちのチャリティー目的に符合しないので、コマーシャルとして別個に運営しなければならないのですが、この拡張には興味をもっています。

レジデンシー・プログラムで私たちが提供するのはアーティストへの総合的なサポートで、制作スタジオや居住環境の手配だけではなく、他のアーティストへの紹介やネットワーク作りなど、海外のアーティストが一番必要と思われる情報を個別サポートで提供しています。

MK:レジデンシー以外でも、アート・カレッジと連携したアワードも供与していますね。ロンドン芸術大学(Chelsea & Camberwell)の学部生に毎年授与されるスタジオ・アワードでは、受賞者は卒業後6ヶ月のスタジオ無償供与、助成金とプロによる個人指導を受けることができます。同様に院卒生を対象としたアワードもあります。これも今お話にあったような総合的なサポート、新卒生が一番必要としている制作環境の枠組みを提供する試みの一つだと思いますが、このようなプログラムでアーティストの選定は、何を基準に行っているのですか。

JH:選定の基準は、供与する各賞やプログラムの報酬がどれほどそのアーティストのためになるかということです。私たちはこれを “Degree of benefit” と呼んでいます。そのアーティストのキャリアに障害となっているものを取り除くことが、アワードの目的だからです。

MK:ハーヴェイさん自身は、どのくらい受賞者選定の審議プロセスに関わっていますか。

JH:可能な限り関わりたいですね。土地開発の仕事が大半になってしまいアートに関わる時間があまりもてませんが、若手アーティストに関わり、彼らが現に直面している今の問題を知ることは、私がアクメ・スタジオを組織した当時の問題設定に帰るために、この上なく重要な機会だからです。アクメのスタッフも多くはアーティストですから、現在のアーティストに課せられたプレッシャーをよく理解していると思いますよ。

APS Contort Yourself (16).jpg2010年「Acme Project Space」でのオープニング

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[5/5]3年後からは助成金を受けずに、独立

MK:アクメ・スタジオ設立から間もない1974年から経済的支援の母体であったアーツ・カウンシルですが、近年大幅に助成金をカットしていますね。現在、イギリスの美術に対する助成金は どんな状況でしょうか。

JH:アーツ・カウンシルはもともと4、5年ごとに、資金配布先を再検討する決まりになっていて、イギリスのアート・ファンディングはこの再構築のプロセスを経なければなりません。毎回、約1000の団体から申請があり、そのうち300程が助成を受けます。私たちは幸いにも3年先までの助成金が確保されています。それにしても近年の助成金カットは大きな混乱を巻き起こしました。

アーツ・カウンシルが独自の判断でファンディング先を決定するという大原則は、近年しだいに失われてきたのではないかと憂慮しています。現在はおそらく、政府が彼らの社会的アジェンダを広告するのにふさわしい団体を選んでいるのではないでしょうか?私は、アーツ・カウンシルが全く独立した判断のできる組織であるべきだと思います。

3年後には、私たちはアーツ・カウンシルのサポートを離れて、経済的に独立できるようになります。アーツ・カウンシルが私たちに十分投資してくれたおかげで、私たちも今では利益を算出できるほどに成長しましたから。

MK:3年後からは、公的基金に頼らない自助自育型の運営モデルとしてやっていくには、民間とのパートナーシップがますます重要になりますね。新しいアートへの公的支援には消極的な日本でも、プラニング・ゲインのような民間投資の機運が生まれるといいのですが。

JH:ある国でできたモデルを他国にそのまま適用するのは、システムが違うのでとても難しいでしょうが、日本訪問はとても楽しみにしています。アクメ・スタジオのプラニング・ゲインのモデルが東京で現実可能なのかどうかとても興味深いです。都市計画の制度もイギリスとは異なる中で、東京の土地開発会社がアーティストのスタジオ開発に協力してくれることを期待したいですね。

P1040159-2.jpg建設中のスタジオ


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ALLOTMENT Annual Art Magazine [WEB閲覧用]

スクリーンショット 2012-10-23 0.54.58.jpg

ALLOTMENTの活動を毎年まとめたAnnual Art Magazineを今年も制作。アート関連施設にて、無料配布させていただいております。今年は、今回のイベントに合わせて、ジョナサン・ハーヴェイ氏のインタビューをロンドンで収録し、まとめたものを掲載。こちらよりウェブ上でも閲覧が可能です。
http://issuu.com/mosaki/docs/allotment

ゲスト

ジョナサン・ハーヴェイ/Jonathan Harvey

1949年イギリス生まれ。ロンドン在住。キュレーター。アクメ・スタジオの創立者で現CEO(最高経営責任者)。TSW(テレビ局)のアート・コンサルタントとしてパブリック・アートの企画・運営、アート関連番組の共同プロデュースなど多数。ブリストル港側の現代アートセンター「Arnolfini」会長(1993年〜2006年)、全国アーティスト・スタジオ提供社連合 (NFASP, the National Federation of Artists’ Studio Providers) の創設者兼理事(2006年〜2011年)を歴任。長年アーティストの活動を支援する活動を行う

ジュリア・ランカスター/Julia Lancaster

ロンドン在住。アクメスタジオ/プログラム・マネージャー。フリーランス・キュレーター、コンサルタントとして25年間、アート教育、アート・マネージメン トに従事。1996年からACME Studiosのレジデンシー&アワード・プログラムの拡大に主導的役割を果たし、これらプログラムの参加アーティストを展示するギャラリー、ACME Project Spaceの運営・管理を務める。その他、Peckham Space 顧問委員、西ロンドン建築センター Fundemental 理事長。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)では、現代アートキュレーション修士コースの外部プロジェクト・ コーディネーター

グラハム・エラード/Graham Ellard

ロンドン在住。アーティスト。ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校准教授。現在、ジョナサン・ハーヴェイ氏との共同プロジェクトKnowledge Transfer Partnershipの主席研究者。このプロジェクトは英国人文科学研究振興会の出資サポートのもと、ロンドンのアーティスト活動を支援する目的で、制作スタジオの形や機能、その未来を考察し、それらの知識を人文系研究機関と実業セクターで共有しながら、その分野の発展をめざすもの。またアーティストとして、映画と建築の境界領域で、大型のヴィデオ・インスタレーションや16ミリ映画を、ステファン・ジョンストーン氏とのコラボ制 作で発表。MOCAシドニー、MOCAヘルシンキ、テイト・リバプールなど展示歴は多数

アクメ・スタジオ/Acme Studios

1972年創設。若手アーティストの活動を支援する英国チャリティー団体の大手。ロンドンを拠点に、(1)現地アーティストへのスタジオ貸出、(2)遠隔地からアーティストを招聘する滞在型制作スタジオの供与(レジデンシー・プログラム)、(3)各種アワードの授与を通じ、過去40年で延べ5000人のアーティストを支援してきた。早くから地方自治体やコミュニティーと連帯し、現代アートの地域開発への関与を押し進めてきたことでも知られる。公式サイト: http://www.acme.org.uk/